くまだかいぬだか

「いま、ここ」を飛び出したい。物語が好き。

アルハンブラに憧れて

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さめよかし。かなた東の丘越えて、

日は星のつどひを夜よりやらひたり。

上りゆく天の原より、ひやうと射て、

サルタンのやぐらを撃てり、光の矢。*1

 

「今、ここ」ではない場所に、ずっと憧れている。

だから物語が好きだし、旅が好きだし、美術作品を眺めるのが好きだ。

社会という文脈の中に規定された「私」をひととき脱ぎ捨てて、何者でもない自分を見つけたとき、世界はきらきらしている。

ここではない「どこか」、その世界に没入して、一体化する体験を得たいのかもしれない。(なんだか怪しい宗教の宣伝文句みたいになってしまった。)

 

 

1. こんなときだからこそ、旅の思い出を語りたい 

家に篭ることしかできない日々はしんどい。

「一日の感染者が〇〇人を越え…」という速報を耳にするたび目にするたび、鬱々とした気分になる。

コロナウイルスの被害が特に大きいと報じられているのが、スペインだ。

昨年(2019年)の夏に訪れたスペインは、陽気な極彩色の国だった。

あの景色を、もう一度見たい。誰かに見てもらいたい。

こんなときだからこそ、旅の様子を振り返ることにした。

 

目的地にスペインを選んだ一番大きな理由が、「アルハンブラ宮殿」だ。

アルハンブラ宮殿ナスル朝の宮殿であり、イスラーム建築として有名である。

イベリア半島は一時期イスラーム支配下にあった。

ナスル朝は13〜15世紀に存在したのだが、レコンキスタによりキリスト教勢力に敗れたため、イベリア半島最後のイスラーム王朝となった。

レコンキスタは北から進み、最後は追い詰められる形で王朝が陥落したので、その首都・グラナダはスペインの南端、アンダルシア地方に位置する。*2

アルハンブラ宮殿の魅力がどこにあるかと言えば、歴史的な経緯が生み出したイスラム教世界とキリスト教世界の様式の融合にある。と私は思っている。

キリスト教徒の征服後、宮殿は破壊されるのではなく、スペイン王国カトリック両王の所有物となり、新たな意匠が施された。

ある意味グロテスクな文化の融合のありようには、人間の中にある本質的なものを感じずにはいられない。

 

前置きが長くなったが、私は無事アンダルシアの地を踏み、マッチ越えを果たしたわけである。(グラナダで「アンダルシアに憧れて」を聴くと非常にテンションが上がったのでおすすめ。)

ちなみに、スペインでは他にもいくつかの都市を周り、スリに遭って現金がなくなったりタクシーを逃して夜道を1時間徘徊したりという非常に貴重な経験をした。

これについても、今後機会があったら書きたい。

 

2. 夜のアルハンブラ宮殿

くどくどと語らない。写真を見てほしい。

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夜の宮殿を案内してもらえるツアーに参加した。

繊細なアラベスク模様に息を呑む。

カメラが上手く設定できなくて若干ブレているのが悔しいが、とにかく人の世ならざる雰囲気を感じてもらえたら嬉しい。

頭の中にはアラジンの「アーラビアナーアアイッ」という曲がエンドレスで流れていて、ディズニーの刷り込みは強いなあと思った。

そう言えばフィレンツェベネチアに行った時も、最初の感想は「ディズニーシーだ!」だったっけ…。

 

3. 朝のアルハンブラ宮殿

出国前、すでにアルハンブラ宮殿狂となっていた私は、一度だけではなくぜひ二度行きたい!と友達を説得し、翌日の朝のチケットも取ることにした。(個人でのチケットの取り方に興味がある人は4を見てください。)

ツアーの出発時間は決められているので、9時のオープンとともに入場しても1時間後にはホテルに戻らねばならない。

かくして私たちは、世界有数の美しい空間を競歩選手のごとく突き進むアジア人となることを決意した。

9月初めのスペインは、夜は21時になっても明るく、反対に日の出は遅かった。

7時半、薄暗がりの中アルハンブラ宮殿に到着。

ホテルからウーバーを使った。タクシーより割高だったが、スペイン語がわからなくても使えるので便利だ。アンダルシアではウーバーはそれほど普及していないのかもしれなかった。

 

宮殿内は複数のエリアに分かれていて、敷地はかなり広い。

王宮やヘネラリフェ(庭園)などの主要なエリアは9時まで入れないが、その他のエリアは公園のようになっていて早朝から散策できた。

 

軍事要塞としての顔を感じさせる砲台。

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街の輪郭がだんだんくっきりと浮かび上がってくる。

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朝日を浴びて赤い城。外見が質素なのもイスラーム建築の特徴らしい。
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王宮に入る。アラヤネスの中庭。
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ライオンの中庭。夜とはまた違った表情。
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天井。人間業とは思えない…。
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天国なのかな?
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窓から差し込む朝日が清々しい。
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パスタル宮。楽園のよう。
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王族の夏の別荘だというヘネラリフェ。花が咲き乱れていた。
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このような中を1時間で駆け抜けた。できることなら3時間以上はかけて見て回りたい。

 

 カラフルで陽気な国、スペイン。

自由に旅行できるような平和な日常が、早く戻ってくることを祈っている。

 

4. おまけ

個人でのチケットの入手方法について、備忘録として書いておきたい。2019年9月時点での情報なので、正式な方法については各自お調べください。参考程度にどうぞ。

公式HPを見ると、チケットはすぐに売り切れてしまうように見えるのだが、2週間前になると少数だが再度チケットの追加販売をしていることがわかった。日本時間0時頃に更新される。

時間指定制で、空きのある分だけ再販しているようなので、例えば9:00 15枚、10:30 4枚、といった時間・枚数の設定になっている。

希望の時間のチケットが残っているかどうかは運次第なので、できることなら3ヶ月前(?)に発売が開始された時点で押さえておくと良さそうだった。

購入の際にはパスポート番号の入力が必須となる。

私は友達の番号を聞いていなかったので、購入が数時間遅れ、一度予定枚数が終了してしまった。

世界中からチケットを求めてユーザーが競い合っている状態だと考えておいた方が良い。

しかし、その後諦めずに何回かHPを更新していると、同じように購入手続きをキャンセルした人がいたようで、何とかチケットを確保することができた。

コロナ収束ののち行かれる方は、ぜひチケットを入手して、ゆっくりと楽園を堪能してみてほしい。

*1:オマル・ハイヤームエドワード・フィッツジェラルド英訳・竹友藻風邦訳『ルバイヤート』(マール社、2005)

*2:山川出版社の『世界史B用語集』等参照。