ヨコハマトリエンナーレ2020 ②プロット48 アンパンマンミュージアムの跡地で見るエビとシダのAVって何?
ヨコハマトリエンナーレ2020は「ちょっと綺麗な写真撮りに行きたいな〜」という人には向かないということを前回の記事で書いたけれど、会場の一つであるプロット48に関してはもう完全に、子ども連れにはオススメしない。
なぜなら、会場が全体的にR15っぽいというか、セクシャルな匂いの強い構成なのだ。
特に3階建ての南棟の方。
別に誇張して言っているんじゃなくて、「SEX CAVE」って書かれた薄暗い部屋があったり(ドア脇のパネルに「R15」って書いてあった)、女体盛りの動画が流れてたり、たくさん浮かんでるのは何のオブジェかな〜と思ったら拘束具(SMのやつ)だったり…という空間。
カオス。
あえて補足するなら、もうすぐで付き合えそうな3回目のデートとか、私たちって一体どんな関係なんだろう…っていう人とのお出かけとか、そういったシチュエーションでの訪問もオススメしない。
100%気まずい雰囲気になる。
とは言いつつ、私はまあまあ面白がれたので、どんな感じだったのかレポート。
(前記事・横浜美術館編はこちら)
onceinabluemoonx.hatenablog.com
セクシーなエビ
南棟2階のエリアの半分以上を占めるのが、エレナ・ノックスの企画による作品群。
今展示でのメインテーマは「エビのための「ポルノグラフィー」」。
どういうことか?
NASAが生物を宇宙に送るために開発した「エコスフィア」というものがあるらしい。
ガラス製の球体の中に水や空気、海藻、バクテリアを入れた、生態系を自己完結する環境システム。
しかしここにエビを入れると、問題が。
エコスフィアに入れられたエビは、なぜか繁殖しなくなってしまうのだ。
科学者も原因を解明できていないというこの問題に対して、エレナ・ノックスは以下のような視点から立ち向かう。
曰く、
なぜエビはセクシーに感じないのか?
どうすればエビはセクシーに感じるのか?
エビのためのポルノを作るべきか?
もともとこれは「ヴォルカナ・ブレインストーム」として実施された参加型プロジェクトで、「ブレインストーム」という言葉通り思いついたことを気ままに話すというコンセプトのもとでの試み。
これを下敷きにした拡張版が本展なので、突飛(に見える)な作品が多いのはこのためかと。
まず件の怪しい部屋の作品、『SEX CAVE OF FUNNY RED & BUSY BOY』(NNNI)。
エレナ・ノックスエリアの中でも壁際にできた長い行列が目立っていて、皆この部屋に入るために待っていた。
私が行った時は5分程度並んだ。
こんなところで自分は一体何を…とうっかり我に返ってしまうので、待ち時間は短い方がいい。
部屋の中へは4人ずつ案内され、見知らぬカップルと一緒になって少々気まずい。
リンク先見てもらえればわかると思うんだけど、エビの格好をした半裸の女の人がエビの殻を剥いて食べてたり、スクリーンの前にはエビがバンズに挟まれたバーガー?みたいなオブジェがあったりして、エロさはないけどまあ見ようによっては官能的ではあった。
それから廊下に出て奥の方の部屋。
「エビのAV(エービー)」というしょうもない名前に釣られて中に入るのはちょっと恥ずかしかったたけど、いざ入ってみたら行列ができていて安心。
なぜ人は、それがエビを対象としたものであるにも拘らず、性的なものに興味を持ってしまうのか。
エレナ・ノックスは、そのような人間の感覚を風刺しているのかもしれなかった。
さて、エビのAV部屋ではエビのラブホテルとか「Prawnhub」といったオマージュ作品みたいなものが散りばめられていて面白かったんだけど、一番奥のVR体験に行列ができていた。
これもわざわざ5分くらい並んでみたけど、私には目の前でエビがふよふよ泳いでいるようにしか見えなくてちょっと期待外れだった。
時節柄消毒の学芸員さんが大変そうで、かなり待つ割にすぐ出されるのでやはり空いている時に行くのが吉。
「性的な行為」と言われると私たちはつい人間同士のものを想定し、特別視しがちだけれど、結局それは生物同士の繁殖のための行為に過ぎないのでは、というメッセージ性を感じた。
テラスハウスの登場人物の顔にエビを被せた加工映像が流れていたのも、結局人間なんて生物の一種に過ぎないのに、その恋愛模様をエンタメ化して消費している私たち、に対する皮肉なのかなと思ったり。
ただ、子孫を残すことを目的とする生物としての側面から人間を捉えることになる今回の作品群では、どうしてもシスジェンダー・ヘテロセクシャルを前提とした雰囲気が色濃く出てしまっている気がした。
エビの格好をして踊っていたのはセクシーな女性だし、なぜか女体盛りの映像が流れてたし、廊下に展示してある半エビ人(?)の人形も裸の女性がモチーフだし。
企画者のエレナ・ノックスを調べるとフェミニズムについて考えているアーティストとしても紹介されていたので、彼女の他の作品ではどのようなアプローチを取っているのか見てみたいと思った。
シダと性愛
このような「性」を前面に出したエレナ・ノックス作品群に対して、似ているようで異なった立ち位置にいる作品が、南棟3階のジェン・ボーの《シダ性愛》シリーズ。
ジェン・ボーが問題にするのは「シダ」という植物。
非種子植物であるシダは、花を咲かせたり、果実をつけ種を作ったりしない。
そのようなシダを「クィア」という視点から捉えて、人間という別の種との交わりの様子を撮影したのがこの作品らしい。
「クィア」という語は広い概念を包括しているけれど、性的少数者全体を指すものとして捉えるのが一般的か。
映像では裸の男性がシダと「性愛」を繰り広げるさまが延々と映っていて、不思議な気持ちにさせられる。
この作品に対してははっきりR15とは書かれていなかったけど、「性的表現」が含まれることは明記されていて、一部分は規制がかかって暗転されるらしかった。
相手がシダの場合でも「性的表現」になるんだとしたら「性」とは一体なんなのか…と考えてしまった。
それなら動物園でたまに見る動物同士の交尾とかにもモザイクかける必要があるのでは。
ジェン・ボー作品の場合は、繁殖を目的としたものではない「クィア」な愛、という部分に焦点を当てていたんだと思う。
《シダ性愛》についてはこの方のブログが一番詳しかったので読むと雰囲気がわかるのではないかと。
プロット48の展示を見た後に残るもの
このように、エレナ・ノックス企画の作品群も、ジェン・ボーの作品も、「性」というものを主要テーマとしながら、違った方向から解釈した、見かけによらず(失礼)真面目な作品だった。
しかし、前者を見た後に階段を上がってすぐに後者を目にして、最終的に残るイメージは、「エビとシダのAVを見たなあ…」というものになってしまわないか。
どちらも表現から受ける刺激が強いので、そこにばかり目が向けられて、肝心なメッセージ性が伝わらないのであれば勿体無い気がした。
思い返しながら文章にしてみたものの、実際に見て体験してみないとあの独特の雰囲気はわからないと思うので、興味を持った方は、ぜひ気の置けない友人と一緒にプロット48に遊びに行ってみてほしい。
ちなみにここで紹介した2パターン以外にも作品はあるので、子どもが見られるものもなくはない。
でも、決して「アンパンマンミュージアムだった建物で、面白そうなお祭りがあるから見に行こうか」とは誘わないことをオススメする。