恋人と別れた話
恋人と別れた。
いつかそういう出来事が起こり得ることを、全く考えていなかったかと言われればそんなことはないのだけど、このタイミングだとは思わなかった。
完全に想定外だった。
「真面目な話がある」と言って掛けてきた電話口の向こうでは、雨の音がした。
別れ話をされながら、無意識に「寒くないかな」「風邪引かないかな」と考えてしまった自分を、滑稽だと思った。
それでも自分の中には、会って話したら何とかなるという根拠のない自信があった。
というか、そう信じ込んで縋りたい希望があった。のだけれど。
彼の決意は固く、どうにも、取りつく島もなかった。
ガストで泣きながら大盛りポテトフライを食べる私に、店員は「混み合ってきたので席をお空けください」と言った。
Time’s up.
血も涙もない。
そんなこんなで、恋人と別れた。
2人で鍋しようと言って誕生日にあげたお皿、結局使わなかったなあ。
カワウソのいるカフェにも、行かずじまいだった。
川端康成は、別れる男に花の名前を教えなさい、花は毎年咲くから、というようなことを言ったらしい。
私は花にはあまり明るくないので、星の名前を教えておいた。ふたご座やすばるやカシオペアや、なるべく新宿でも見えそうな明るい星。
彼の生活に、空を見上げて少しでも悲しくなる余裕があることを願いながら。
さよなら、暫くは、不幸せでいてください。