生きてるうちに読めて良かった。矢沢あい『天使なんかじゃない』
自分の幸せを いちばん守りたい
自分の理想とする高校生活を送れた、って言い切れる人はこの世にどれくらいいるんだろう。
小学生の頃から少女漫画で予習を重ねた。
昼休みには友達と屋上で購買のパン食べて、ある日放課後の非常階段で告白されて、彼氏と帰り道にクレープ食べるつもりでいたのに、実際には屋上は立ち入り禁止だったし告白されなかったしクレープはダイエーのフードコートで友達と食べた。
送りたかった高校生活がここに詰まっていた。
でも登場人物たちがみんなオトナで、25歳の今読んだからこそ圧倒的に共感できたのかもしれない。
同じ美術部なのに、翠ちゃんたちが恋バナしてる一方で私はお菓子パーティーしてたし。
ていうかもしかして私が気づかなかっただけで、周りの子達はみんなきらっきらな高校生活を送ってたんだろうか。不安になってきた。
まあ今思えば、自分の高校時代もそれなりに楽しかったんだけどね。
あらすじやちゃんとした評論なんかは、こんな有名作、色んな人が散々書いてきたと思うので、思ったことだけ書きます。(若干ネタバレかもしれない)
翠ちゃんと晃の出口のない感じ
私のイメージするよくある少女漫画の恋愛だと、主人公が憧れる男の子がいて、美人の恋敵が出現して、一方主人公に思いを寄せる幼馴染もいて、物語の最後に2人が付き合ってハッピーエンドになる。
『天ない』だと、翠ちゃんと晃は序盤でくっつくし、晃のことを好きな恋敵も出て来ない(マキ先生がいるけど、彼女は晃のことを弟的な存在として見ていて恋愛感情は抱いていないし、恋敵とはちょっと違うと思う)。
その点、2人の関係をおびやかすのは、外からの力ではなくて、お互いの信頼関係の揺らぎ。
「晃 他に好きな人がいるなら そっちに行っていいんだよ」
「おまえの他に行くところなんか ねぇよ」*2
ねえ晃 あたしたちこんなんじゃ 永遠に同じことのくり返しだね*3
この辺り、本当にしんどくて泣きそうになった。
好きな人と付き合えたらそれでめでたしめでたし、じゃなくて、そこから先のどうしようもなさ、しがみついてループに陥る感じ。
出口のなさ。閉塞感。
翠ちゃんのうじうじするところ、好きでした。
マミリンが可愛すぎる
そして何と言ってもマミリンですよ、マミリン。
最初はツーンと澄ました無愛想な子なのに、どんどん可愛いところが見えてくるマミリン。
魅力は尽きませんが私が「マミリン!!」と思ったシーンの一部を紹介します。ありすぎて書ききれん。
お調子者!
ライブのあいだ中 うわの空だったくせに 全然聴いてなかったくせに
よくもまぁ あんな適当に 良かっただの感動しただのいい歌だの言えるわね
失礼にもほどがあるわよ*4
完全版2巻で、翠と一緒にケンのライブを見に行ったシーン。
翠ちゃんは晃のことで頭が不安でいっぱいになっていて、曲をろくに聴いていなかったのに、どの曲が気に入ったか訊かれれば「全部♡全部♡」、さらに打ち上げに誘われて参加しようとする。
打ち上げを断り翠を連れ出したところで、マミリンのこの一喝。
マミリンの誰に対しても筋を通そうとするところに惚れました。
その上でそれで何があったのよ、と翠ちゃんの話を聞いてあげる優しさ。
その後マミリンはケンにもプロになることを勧めたりしてちょっと仲良くなっているところがまた良い。
自分の気持ちに嘘がつけないだけよ そこがあんたのいいとこよ*5
翠の「強いんじゃなくて ずるいんだよ」に対する返答。
このやりとりめちゃくちゃ好き。
翠… 今度こそ幸せになれるよね?*6
ここ、随一の名場面。
ってバンプの藤くんも書いてた。
翠のために、晃がプレゼントした天使の羽のネックレスを探すマミリン。
雨の中、自分のことのように必死になって、やっと見つけたところでこのひとこと。
瀧川くんに確かめるように訊くマミリン。
これはキスするよねわかるよタキガワマン。私でもするわ。
マミリン…!この場面読んで泣かないことあります?
誰にも引き止めてもらえないのかと思った*7
留学するか悩んでいたマミリン。
タキガワマンに「行くなよ」と言われて、一緒にいることを選ぶのかと思いきや、「耐えてよ」と自分の感情をぶつける。
自分の夢のために、留学には行く。
でも、「誰にも引き止めてもらえないのかと思った」と涙を流すマミリン。
マミリン…マミリン…マミリンンンンンンン
他にも志乃ちゃんにビンタするけどその後ちゃんと謝りに行くところとか、志乃ちゃんと瀧川くんの関係を壊すのは望んでいないところとか。
実は主人公マミリンでは? と思うほど名場面のオンパレード。
志乃ちゃんも不器用なだけの良い子だし、むしろ2人を振り回すほどタキガワマン魅力あるか? って思った。
とにかく、生きてるうちに読めて良かったです。
名作すぎた。