くまだかいぬだか

「いま、ここ」を飛び出したい。物語が好き。

主体的に眼差される女性たち 横槍メンゴ『一生好きってゆったじゃん』

 

横槍メンゴが贈る7編の青春オムニバス結ばれることのなかった初恋の人。憧れ続けた同級生。なりたかった理想の自分。

永遠に届かないあなたに恋をしてしまった私たちは

戸惑い傷つき失いながらも、自分だけの答えを求め彷徨うーー

クズの本懐』の横槍メンゴが贈る7編の青春オムニバス。

一生好きってゆったじゃん | 横槍メンゴ | 【試し読みあり】 – 小学館コミック  

最新号の「BRUTUS」で村田沙耶香さんが書評を寄せていたのを見て、気になって買ってみた一冊。

そのページがちょうど試し読みできるのでよかったら見てください。

magazineworld.jp

クズの本懐』の 横槍メンゴ先生の短編集。

ペンベームがふざけすぎてて書いていて不安になる。(失礼)

7つの短編が収録されていて小学館から出てるんだけど、そのうち3つの話はジャンプ系列の雑誌に掲載されたものらしい。

へえーと思ったけど、こういうことってよくあるんですかね?

7分の3が2020年発表の作品なのでお得感がある。

 

「Neo Dutch Wife」と「恋は前傾姿勢」以外は全部女の子が主人公だった。(ちなみに後者は8ページの小品)

この人の描く女の子はどの子も可愛い。

可愛いんだけど、「若い女の子」っていう今の自分が持つ価値に意識的で、使えるものは使えるうちに、と武器にして生きようとする。

主体的に自分の身体を使おうとする姿勢はある意味ではフェミニスト的でさえあるんだけど、その根底にあるのは結局、自分が男性に性的に眼差される受動的な存在であるということへの諦念であって、読み終わった後切ない気持ちになる。

男性読者の人はどういう気持ちでこれを読んでいるのか聞きたい。

 

私が特に印象深かったのが「「かわいい」」と「南無阿弥だいすき」。

「「かわいい」」は14歳のジュニアアイドルの雪帆の話。

結構きわどい格好で活動していて同級生の女子からは「ビッチ」と呼ばれいじめられているけれど、本人は意に介さない。

雪帆は自分が「かわいい」ことを自覚していて、今持てる価値を最大限に生かして「かわいい」をもらおうとする。

「「かわいい」の貰えない奴ら」は、「フツーに哀れ」。

同じ活動をする姉は、「男の人が怖くなった」「普通には生きられない」と嘆く。

それでも辞めた後のことを見据えて芸名を使い、夢に向かって地道な努力をする姉。

でも雪帆には「これしかない」。

自分は「かわいいだけ」だから。

好きな人は「お前は夢を追いかけてるだけなんだから」と励ましてくれるけれど、その活動の先には何もないことを雪帆は知っている。

それでも、彼から「かわいい」と言われれば満たされてしまう彼女は見ていて痛々しい。

「南無阿弥だいすき」は、収録作の中では珍しくハッピーエンド風な話。

主人公キサは、バンドマンのユーゴと付き合っている。

彼の言うことを何でも聞くキサをユーゴは「クソつまんねー女」と言い、モラハラまがいの扱いをする。

「もっとキモチとかぶつけて来いよ」「俺のこともおもしろくさせろよ」と詰る彼に、キサが出した結論はいっそ小気味好い。

受動的に見えていた彼女は、実はちゃんと主体性をもって彼を見つめていた。

 

性差別っぽい言い方をするのは本意ではないんだけど、登場人物たちのメンヘラ具合は女性作者だからこそ描けるものな気がする。

周りで『クズの本懐』を話題にしていたのも大体女性だったし。

自分が女性コミュニティにいるからなんだろうか。

繰り返しになるけど、男性はどう読んでいるのか知りたい。