ほんとうの仕草
高校の時の、小さな記憶が、不意に甦った。
彼女とは1年生の時のクラスが一緒だった。
自称進学校だった高校の中で、明るく染めた髪にエクステを付け、完璧なメイクで登校し、校則で禁止されているバイトをしていた彼女は、明らかに浮いていた。
その見た目に反して、定期テストではいつも学年上位の成績を取っていた。
「見た目が地味で勉強も出来ないなんて最悪」と言っていたのを覚えている。
彼女はその真逆をいっていた。
「異質」な存在に眉を顰め、一方では自分たちの出来ないことを涼しい顔でやってのける彼女に憧れながら、それなのに頭がいいことに嫉妬心を抱き、多くの人は彼女に注目したし、私も多分その一人だった。
彼女は賢いから、周りが自分に対して取っている距離感を的確に捉えていたのだと思う。
成人式の後の同窓会にも来なかったし、卒業してから彼女には会っていない。
それなのにどうして、あの子を思い出すことになったのかというと、インスタグラムに彼女の子どもの写真がよく流れてくるようになったからだ。
大学を卒業してすぐ、彼女は赤ちゃんを産んだらしい。
せっかく努力して得た学歴と、(多分いい所に決まっていたであろう)内定先を蹴って、母親になるなんて、私には選べない生き方だし、やっぱり彼女は根本的にタイプの違う人間だったんだなあと思う。
それでも私は、あの子の小さな仕草を覚えている。不意に甦った記憶。
高校に入って最初の定期テストの日。
斜め後ろの席の彼女は、一時間目の試験が始まる前、明るく染めた髪を、黒いゴムできゅっと、一本に結んだ。
どうして結ぶの、と他の友達が聞くと、集中したいから、と何気なく言った。
何だか、その仕草には嘘がない気がした。
大袈裟だけれど、人間性の本質が顕れたと思った。
私はそんな彼女の姿に、初めて自分と似たものを感じて、当時清々しい共感を覚えたのだ。
書いてみたら別になんということはない話なんだけども。
外面の、分かりやすいところだけ見るのではなくて、そういう、ほんとうの仕草を、見逃さないで生きていける人になりたいなあなんて思うのだ。