くまだかいぬだか

「いま、ここ」を飛び出したい。物語が好き。

「翻訳できない世界のことば」〜言葉は、世界の輪郭を象っている

 

翻訳できない世界のことば

翻訳できない世界のことば

 

 

「翻訳できない世界のことば」という本を、結構前に買った。

高級なチョコレートを一粒ずつつまむみたいに、大事に読み進めたくなる、不思議な魅力をもった絵本だ。

 

 

構造主義の祖となったソシュールは、はじめに言葉ありき、という観念を唱えている。

 

例えば虹を見たとき、日本人は7色だと思うのに対し、英語圏の人々は6色、ネイティブ・アメリカンは3色と捉えるらしい。

また例えば、「犬」「狼」という言葉がなければ、私たちはあの動物を区別して認識するのかどうか。

これがソシュールの言うところによる「言葉は世界を構造化する装置」ということである。

言葉は、世界の輪郭を象っている。

 

この本ではページごとに、世界のさまざまな「翻訳できない」ことばが、味のある挿絵とともに紹介されていく。

例えば。

 

”vacilando”(スペイン語

「どこへ行くかよりも、どんな経験をするかということを重視した旅をする」

 

“waldeinsamkeit”(ドイツ語)

「森の中で一人、自然と交流するときのゆったりとした孤独感」

 

こういう見方、価値観をもっていただろうかと、自分に問いかける。

言葉を知ることは、世界を広げることなんだなあと実感する。

本質的な読書体験をさせる本だと思う。

 

あと個人的に好きなのは、

 

“cotisuelto”(カリブ・スペイン語

「シャツの裾を、絶対ズボンの中に入れようとしない男の人」

 

“pisan zapra”(マレー語)

「バナナを食べるときの所要時間」

 

このゆるさが何ともいい。

そして

 

積ん読”(日本語)

「買ってきた本をほかのまだ読んでいない本といっしょに、読まずに積んでおくこと」

 

ああ日本語話者として生まれておいて、よかった!